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福岡高等裁判所 昭和61年(ネ)144号 判決

控訴人

鍬崎征治

控訴人

鍬崎昭子

右両名訴訟代理人弁護士

熊谷悟郎

被控訴人

国内信販株式会社

右代表者代表取締役

塚本英志

右訴訟代理人弁護士

坂本佑介

井上庸夫

鬼丸義生

古賀和孝

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次に付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する(但し、原判決二枚目表三、四行目の「以下「被告鍬崎」という。」を「以下「控訴人征治」という。」と、同一〇行目の各「被告」、同裏五行目の「被告」、同三枚目表一一行目及び末行の各「被告鍬崎」、同裏五行目の「被告鍬崎」をいずれも「控訴人征治」とそれぞれ改める。

(当審における控訴人の主張)

1  本件サウナは使用不能であり、又その補修・修繕が受けられないので、控訴人らは本件リース契約の目的を達することができない。控訴人らは、昭和六一年五月一四日の本件口頭弁論期日において本件リース契約を解除する旨の意思表示をした。

2  本件のごとく、リース物件の本来の使用収益が全くできず、しかも販売会社にその瑕疵・故障の補修・修繕を行わせることが全く期待できない実況にある場合にまで、リース会社がそれを放置したまま借主にリース料金の支払いを強制できるとすることは、信義誠実の原則に反する。

(右主張に対する被控訴人の認否)

いずれも争う。

三 証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因1、2の事実及び控訴人らは昭和五八年三月二七日までに合計金五万二八〇〇円を支払つたこと、同月四月二七日に支払うべき金一万七六〇〇円を支払わなかつたこと、残リース料は金一〇〇万三二〇〇円であることは当事者間に争いがない。

二そこで控訴人らの主張について判断する。

右争いのない事実、〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められ、これに反する〈証拠〉は右証拠に照らし措信できず、他にこれに反する証拠はない。

1  控訴人征治は、昭和五七年一二月中旬ころ本件サウナの販売を行う訴外会社販売担当者から控訴人征治経営のホテルに本件サウナを設置することを勧められ、これに応ずることに決めたところ、右担当者より右サウナを導入する方法として同サウナを訴外会社から買受ける他に、リースの方法によることができる旨教えられ、リースの方法によつて本件サウナを利用することに決め、同月二三日被控訴人に対し訴外会社を通じてその旨申込み、他方被控訴人も控訴人らの信用調査を行つたうえ同月二五日請求原因1記載の本件リース契約を締結した。

2  被控訴人は、控訴人らとの本件リース契約の成立により、そのころ訴外会社から本件サウナを購入し、同月二七日ころ訴外会社が控訴人征治経営のホテルに直接設置して引渡した。被控訴人と訴外会社との間では加盟店契約を結び、リース物件の瑕疵、アフタサービスは訴外会社の責任とする旨を約しており、これに対応して訴外会社は控訴人征治に対し本件サウナをリース期間中無償で修理する旨約している。また、本件リース契約締結の際作成された契約書(甲第一号証)においては、リース契約申込者は、リース期間の満了まで契約を解約しない、リース物件の引渡を受けたときは直ちにその検査を行ない借受証を被控訴人に交付し、リース物件に瑕疵があつたときは借受証にその旨記載し、記載を怠つたときは、物件は完全な状態で引渡されたものとし被控訴人には以後一切の苦情を述べない、リース物件の瑕疵・故障についてはリース契約申込者である控訴人征治と販売店との間で処理解決し、これを理由にリース料の支払いを怠り、その他苦情を述べず、控訴人征治がリース料の支払を一回でも遅滞したとき、或いは所定の事由が生じたときはリース会社でる被控訴人は本契約を無催告解除することができ、その場合被控訴人は残リース料相当額を損害金として即時請求できる、リース物件の維持・補修は一切控訴人征治において行う等と規定されている。控訴人らが被控訴人にリース期間中支払うべきリース料総額は、本件サウナ売買代金に金利、その他の経費を加算した金額である。

3  なお、控訴人征治は、被控訴人に対し本件サウナの借受証を交付しており、その借受証には本件サウナに瑕疵があるとの記載はない。

以上の事実を総合すれば、本件リース契約は、いわゆるファイナンス・リース契約であると解するのが相当であり、形式的には賃貸借の法律関係を利用しているものの実質的には貸主は、借主にリース物件の購入資金を融資して借主に同物件を購入したのと同一の経済的効果を与える一方、右購入代金、金利その他の経費を貸与期間中に借主から回収するものであるから、その本質は、法律上の形式にもかかわらず経済的に借主に金融上の便宜を与えることにあるといえる。これを借主の立場からみれば、リース物件を代金割賦支払の方法で買入れるのと同様であるから、リース料債務自体は契約時にその全額が発生しているが、それを分割した各支払期のリース料が定められることによつて、借主に期限の利益が付与されているにすぎないともいえるのである。

そうすると、リース物件の使用収益とリース料の支払いとは対価関係にあるといいがたく、その意味で控訴人らの本件サウナに瑕疵が存在することを理由とする同時履行の抗弁及び解除の抗弁は理由がないということができ、さらに、前記のとおり、本件リース契約にはリース物件の瑕疵について被控訴人は責任を負わない旨の免責条項が存在するから、仮に本件サウナに瑕疵が認められるとしても、それを理由に被控訴人に対しリース料あるいは約定の損害金の支払いを拒むことはできないというべきである(なお控訴人征治は、原審における本人尋問において、本件サウナの借受証を被控訴人に交付した段階では、本件サウナの引渡を受けていなかつたかのような供述をしているが、仮にその供述どおりであつたとしても、控訴人征治が本件サウナの引渡を受けている以上、前記結論に影響はない。)。

また、控訴人らは、リース物件に瑕疵があり、その修理が全く期待できない場合には右免責特約は信義則に反し無効である旨主張するが、瑕疵担保責任に関する民商法の規定は任意法規であつて契約当事者間でこれを排除する合意は有効であると解されるところ、本件リース契約は実質的に控訴人らに対する金融機能を営むものであり、被控訴人には、その業務内容からしてリース物件の瑕疵に対処する能力がなく、かつ融資金の確実な回収をはかるために、その瑕疵等については免責特約を締結する必要があり、その代りに、被控訴人としては販売店である訴外会社との間でリース物件の瑕疵及びアフタサービスを訴外会社の責任とする旨約し、これに対応して、訴外会社は購入者に対し本件サウナをリース期間中無償で修理する旨約していることは前示のとおりであるから、仮に控訴人ら主張の前記事実が認められる場合においても前記免責特約が信義則に反すると解することはできない。

よつて、控訴人らの主張はいずれも採用できない。

三してみると、控訴人らは、被控訴人に対し本件リース料金一〇〇万三二〇〇円を支払う義務があるから、被控訴人の本訴請求は、正当として認容すべきものである。

よつて、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官森川憲明 裁判官柴田和夫 裁判官木下順太郎)

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